内定を承諾した。次の会社の入社日も決まった。あとは今の会社に言うだけ。なのに、この「言うだけ」が一番重い。

退職交渉で揉めるのは、伝える相手と順番を間違えたときです。ここでは誰に、いつ、何を言うか。引き止めにどう返すか。有給と引継ぎをどう組むかを、順番どおりに書きます。

転職活動そのものの進め方は在職中の転職活動の進め方に、内定条件の確かめ方はオファー面談と年収交渉にまとめました。

切り出すのは、内定を承諾したあと

順番を間違えると立場が弱くなります。内定が出る前に退職を伝えると、選考に落ちたときに戻る場所がない。内定が出ても承諾前に伝えると、条件交渉の途中で退路を断つことになる。

労働条件通知書を受け取り、内容を確認して承諾してから、現職に伝える。この順番だけは守ってください。

最初に伝える相手は、直属の上司

同僚や人事に先に話すと、上司は「自分が最後に知った」と受け取ります。その後の交渉がこじれる原因の多くはここです。

直属の上司に、1対1で時間をもらって伝える。メールやチャットで済ませず、口頭で。伝える内容は3つで足ります。退職の意思が固いこと、希望する退職日、引継ぎに協力する意思があること。

理由は聞かれますが、詳しく話す必要はありません。「別の会社で働くことを決めました」で十分で、次の会社名を言う義務もありません。現職への不満を理由に挙げると、改善案を出されて話が長引きます。

伝える時期と、法律上の期限

法律上、期間の定めのない雇用契約は申し入れから2週間で終了します。ただし多くの会社は就業規則で「退職の1か月前までに申し出ること」などと定めています。

就業規則の定めは、2週間という法律の期限を延ばす効力について議論がありますが、円満に辞めるなら規則に沿うほうが揉めません。引継ぎと有給消化の日数を足すと、実際には1〜2か月前に伝えている人が多いでしょう。

内定先の入社日から逆算して、いつ伝えるかを決めておきます。入社日の調整が要るなら、内定先には早めに相談してください。多くの会社は1〜2か月の範囲なら応じます。

退職願と退職届の違い

退職願は「退職したいのでお願いします」という申し出です。会社が承諾する前なら撤回できます。

退職届は「退職します」という一方的な通知です。提出後の撤回は原則できません。

流れとしては、まず口頭で伝え、上司と退職日を合意してから、会社の様式に沿って書面を出します。会社によっては退職願のみ、退職届のみ、あるいは社内システムでの申請、と形式が違うので、人事に確認してください。書面の日付と、合意した退職日を一致させておくと、あとで食い違いが起きません。

引き止めへの返し方

引き止めには型があります。返し方も決めておくと、その場で揺れません。

引き止めの型よくある言葉返し方
情に訴える「今辞められると困る」「君に期待していた」感謝を伝え、意思は変わらないと繰り返す
条件を出す「給与を上げる」「部署を変える」決めた理由に立ち返る。給与だけが理由でなければ断る
時期をずらす「後任が決まるまで」「来期まで」入社日が決まっている旨を伝え、引継ぎ期間の範囲で協力する
脅しに近いもの「損害賠償」「離職票を出さない」その場で応じず、記録を残して労働基準監督署などに相談する

条件を出されて迷うのは自然です。ただ、転職を決めた理由が給与以外にもあるなら、給与が上がっても他の理由は残ります。一度辞意を示した人への見方が元に戻らないことも、残る側のリスクとして数えておいてください。

有給消化と引継ぎの組み方

有給休暇は退職時に残っている日数をまとめて使えます。会社側の時季変更権は、退職日より後に振り替えることができないため、退職前の消化を止める根拠にはなりません。

とはいえ、引継ぎを放り出して休むと、次の職場に評判が伝わることもあります。最終出社日と退職日を分けるのが一般的な組み方です。最終出社日までに引継ぎを終え、そこから退職日までを有給で埋める。

引継ぎ資料は、担当業務の一覧、進行中の案件の状態、関係者の連絡先、判断に迷った過去の事例をまとめたもので足ります。後任が決まっていなくても、資料があれば会社側の負担は減り、こちらの立場も保てます。

退職日までにもらうもの、返すもの

離職票、源泉徴収票、雇用保険被保険者証、年金手帳(預けている場合)。この4つは退職後の手続きに要ります。離職票は退職後に届くのが通常なので、いつ届くかを人事に確認しておきます。

返すものは、健康保険証、社員証、PCや携帯、鍵、会社の資料。返却の方法と期限も、最終出社日までに確認してください。

揉めない退職は、順番で決まる

承諾してから伝える。上司に、口頭で、先に。理由は短く、意思は固く。書面は合意のあと。有給は引継ぎのあとに。

この順番を守れば、退職交渉は思っているほど重い場面にはなりません。伝える日を決めたら、就業規則の退職に関する箇所を今日読んでおいてください。それだけで、話す内容の半分は固まります。