内定の条件が届いた。年収は今より60万円低い。仕事内容は魅力的で、残業も減りそう。それでも数字を見た瞬間、迷いが止まらなくなる。
「下がる転職はやめたほうがいい」という一般論も、「お金より大事なものがある」という一般論も、あなたの判断には使えません。使えるのは、あなたの数字だけです。ここでは決める前にそろえる5つの数字と、そろえたあとの判断の仕方を書きます。
数字1:総額ではなく、基本給で比べる
年収の総額が同じでも、中身が違えば別物です。
基本給が高くて賞与が少ない会社と、基本給が低くて賞与が大きい会社。前者は毎月の収入が安定し、後者は業績で年収が大きく振れます。残業代の計算も、退職金の算定も、基本給を土台にしている会社が多い。
提示された年収を、基本給、賞与、各種手当、固定残業代に分けて書き出してください。労働条件通知書か、オファー面談で聞けば出てきます。分け方が分からなければ、オファー面談と年収交渉の確認項目を使ってください。
数字2:残業代は、何時間分が含まれているか
「年収500万円」の中に、月45時間分の固定残業代が入っていることがあります。この場合、残業が少ない月でも同じ額が支払われますが、45時間を超えた分しか追加で出ません。
現職の年収に残業代がいくら入っているかも、同じように見ます。月30時間残業していた人が残業の少ない職場に移ると、額面が下がっていなくても残業代の分だけ手取りは減ります。逆に、額面が下がっても残業がなくなるなら、時間あたりの収入は上がっていることもある。
年収を月の総労働時間で割った「時間あたりの収入」を、現職と内定先で並べてみてください。見え方が変わります。
数字3:賞与は、いくら振れるのか
賞与は会社の業績と個人の評価で変わります。「賞与年2回、計4か月分」と書かれていても、それは前年の実績や標準的な評価の場合の数字です。
内定先には、直近3年の賞与の実績(何か月分だったか)と、評価で振れる幅を聞いてください。答えられない会社もありますが、聞くこと自体は普通のことです。最低ラインの賞与で計算した年収を「下限」として持っておくと、転職後に想定より低かったという事態を避けられます。
数字4:手取りで、月いくら変わるのか
額面の差より、手取りの差のほうが生活に響きます。
社会保険料や住民税には前年の収入をもとに決まる部分があるため、転職して額面が下がった直後は、手取りの減り方が額面の減り方より大きく感じられます。翌年以降に落ち着く部分もありますが、最初の1年は厳しめに見ておく必要があります。
内定先の額面から、概算の手取りを出してみてください。家賃、固定費、貯蓄の目標を引いて、月にいくら残るか。今の生活と比べて、どの支出を変える必要があるか。ここまで具体化すると、「60万円下がる」という数字が「月に3万円、外食と貯蓄を見直す」という判断できる形に変わります。
数字5:下がる期間は、いつまでか
年収が下がる転職の多くは、時間差で回復します。未経験の職種に移って最初は低いが、3年後には現職を超える見込みがある。あるいは、業界全体の給与水準が違い、回復の見込みが薄い。
内定先に、入社3年目、5年目の社員の年収レンジを聞いてください。等級制度があるなら、次の等級に上がる目安の年数も。回復までの年数が見えれば、その期間の減収を「投資」として総額で計算できます。回復の見込みが立たないなら、それは「下がる転職」ではなく「低い水準に移る転職」なので、判断の仕方が変わります。
5つの数字をそろえたあとの判断
数字がそろったら、判断は3つの問いに答えられるかで決まります。
| 問い | 答えられる状態 | まだ決めないほうがいい状態 |
|---|---|---|
| 減収の間、生活は回るか | 手取りの差と期間を計算し、削る支出を決めている | 「なんとかなる」としか言えない |
| 下がる代わりに何を得るか | 時間、健康、経験、将来の伸びのどれかを自分の言葉で言える | 「今の会社が嫌だから」だけ |
| 家族は合意しているか | 数字を見せて話し、同じ判断になっている | まだ話していない、反対されている |
3つとも答えられるなら、年収が下がる転職は「間違い」ではありません。1つでも欠けているなら、内定先に承諾期限の相談をして、時間を作ってください。承諾期限は数日なら延ばしてもらえることが多いものです。
数字が悪ければ、交渉の材料になる
計算した結果、提示額では回らないと分かったなら、それは交渉の根拠です。現職の内訳、生活に必要な下限、内定先の等級の位置。この3つを示して「基本給を◯万円まで見直せないか」「入社1年後の昇給時期を明示してもらえないか」と聞くのは、失礼ではなく普通の手続きです。
伝え方の型はオファー面談と年収交渉に書きました。数字をそろえるのは、決めるためだけでなく、決める前に条件を動かすためでもあります。
年収の欄を見て迷いが止まらないなら、まず今日、現職の給与明細を1枚出して、基本給・賞与・残業代に分けてみてください。比べる相手が見えると、迷いは判断に変わります。