「今週中にお返事をいただけますか」

転職エージェントとやり取りしていて、こう言われたことはありませんか。あるいは、希望と少しずれた求人をまとめて送られてきたこと。

どちらにも理由があります。お金の流れを知ると、その理由が見えてきます。

求職者は無料。では誰が払っているのか

採用が決まったとき、採用した企業がエージェントに紹介手数料を払う。これだけです。

ここから3つのことが決まります。エージェントにとっての顧客は企業側であること。収益は入社が成立して初めて発生し、それまでの工数はすべて先行投資であること。そして手数料は年収に比例すること。

批判ではなく、事実の話です。知っているかどうかで、面談での受け取り方が変わります。

手数料は年収の30〜35%

金額に直すとこうなります。

決定年収手数料率エージェントの売上
400万円30%120万円
600万円32%192万円
900万円35%315万円
1,200万円35%420万円

※一般的に使われる水準からの試算です。実際の料率は契約により異なります。

つまり、あなたの年収が上がるとエージェントの売上も上がる。年収交渉に力を入れてくれるのは善意だけではなく、経済的な理由もあります。ここは利害が一致しているので、遠慮なく任せていい領域です。

「今週中に」の背景

あまり知られていませんが、紹介契約には通常返金規定があります。入社後すぐ退職すると、エージェントは手数料の一部または全部を企業に返す。返金割合は在籍期間が延びるほど下がります。

この規定は本来、ミスマッチを防ぐ方向に働きます。すぐ辞められては売上が消えるので、合わない求人を押し込む動機は下がる。

一方で、別の力学もあります。多くのエージェントは月次・四半期の売上目標を持っていて、決定が翌月にずれるとその月の数字に乗りません。急かしの一部は、あなたの機会損失を心配しているのではなく、期日の側の事情です。

だから「なぜ今週なのか」と聞いてみてください。他候補との兼ね合いや内定承諾期限という具体的な答えが返ってくれば妥当。曖昧なら、それが答えです。

利害が一致する場面と、ずれる場面

敵視する必要はありません。区別さえできていればいい。

場面利害
年収交渉一致。任せてよい
書類添削・面接対策一致。通過率が上がることが双方の利益
企業の内部情報の提供おおむね一致。早期離職は返金対象だから
「転職しない」という結論ずれる。売上がゼロになる
応募先の絞り込みずれることがある
決定の時期ずれることがある

4行目が肝心なところです。現職に留まるほうが合理的なケースでも、エージェントからその助言が出てくる可能性は構造的に低い。留まる選択肢も含めて考えたいなら、その判断は自分か、利害関係のない相手とやったほうが確実です。

仕組みを踏まえた3つの使い方

複数社に登録する

1社だけだと、その会社の求人とその担当者の力量が、あなたの選択肢の上限になります。2〜3社あれば担当者の質を相対評価できる。複数登録は一般的な行動で、エージェント側も前提にしているので遠慮は不要です。

ただし同じ企業に複数ルートから応募が入る「重複応募」は避けてください。選考上不利になることがあります。どこにどの経由で応募したかは、自分で一覧管理しておくと安全です。

「応募は自分が決める」と最初に伝える

推薦が同意なしに行われるべきではありません。初回面談で「応募前に必ず確認してください」と言っておくと、後のトラブルを防げます。

提案の理由を必ず聞く

「なぜこの求人を私に?」は失礼な質問ではありません。あなたの経歴のどこが企業のどの要件に対応しているかを具体的に説明できる担当者は、企業側のこともよく理解しています。「幅広くご経験があるので」といった答えなら、母数を稼いでいる可能性を疑ってよい場面です。

年収は内訳で確認する

手数料の算定基準になる理論年収には、想定される賞与や固定残業代が含まれることがあります。提示された金額のうち、確実に受け取れる部分がいくらか。

基本給はいくらか。賞与は何か月分で、業績連動か固定か。固定残業代は何時間分含まれているか。

ここを聞かずに「年収アップ」だけで判断すると、月々の手取りが増えていないということが起こります。

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使わない理由はない

求職者の費用負担はゼロ。得られるのは非公開求人へのアクセス、選考プロセスの内部情報、年収交渉の代行、日程調整。使わない手はありません。

問題は「使うかどうか」ではなく、言われたことをそのまま受け取るかどうかのほうです。相手には相手の経済的な立場がある——それを前提に会話すれば、エージェントは非常に有用な相手になります。

面談で具体的に何を聞けばいいかは初回面談の準備と質問リストに、総合型と特化型のどちらを使うかは特化型エージェントの選び方にまとめています。